夏山登山で遭難ニュースが相次ぐ昨今
今だから話そう わたしのあわやの怖い体験記

 比良岳地蔵の辻〜中ユリ〜大岩谷〜荒川峠道


こんな時間になってしもうた



2008.10.12 晴れ ikomochi

コース:
比良岳縦走路地蔵の辻12:30〜中ユリ〜崩落地13:40〜葛川越え分岐14:10〜大岩谷〜川原15:30〜堰堤16:20〜山道〜荒川峠道取り付き17:20〜(大休止)〜林道〜JR志賀駅19:00








 今をさること2年前 地図の破線で気になっていた中ユリから葛川越えを通ってみようと資料を調べるも、あまり記録がない。が 道は一筋 迷うこともあるまいと 比良岳の帰りに地蔵さんのおわす広場から、ユリ道に入り 大谷川をめざした。

中ユリ出合い 中ユリの古道

 中ユリは一般登山者は進入禁止とかで、入り口にはテープが張ってある。転落事故があったと聞いたことがあるのだが、歩く道は広く緩やかで問題はなさそうな往時のユリ道。人の往来が少ないとみえ、道の真ん中に鹿の寝床が点々とある。が、道は少し荒れているくらいで 倒木もなく、るんるんで緩やかにジグをきりながら 高度を下げていく。

 20分下ったところで、支尾根に向かって赤ペンキマークが点々と続く。少し分け入ってみるも、印は尾根の先へ向かいユリ道から離れるので、また元の道へと戻り下っていくと、足元に白い岩の転がる谷間が見えてきた。葛川越えの道に出たのだろう。さて、そこからが問題だった。谷に下る取り付き部は大きくえぐれていて 細い獣道がトラバースしているが、その足元は一気に崩れている。それでも恐る恐る半分くらいまで歩を進めたが、ニッチもサッチもゆかなくなりそうで、後戻り。

中ユリ 赤ペンキマークが現れる

 川に下る道を探すと、大木の赤ペンキマークの下にはロープの切れ端がぶらさがっている。が、その先は谷がどうなっているのか 予測がつかない。しばらくうろうろしていたが、道を引き返し、ざれ場からもう少し足元のよい林の中に入ってみた。同じように考える人はいるらしく 細いふみ跡がざれ場の上部を越えていた。潅木を掻き分け、ともかく谷に下るコースをと探しながら 四苦八苦して川岸に出た。

葛川越えを望む 崩落した古道取り付き付近

 ここにも赤ペンキが点々とあるが、どこに導くのかよくわからない。大岩に埋め尽くされた川は、足元数メートルの下にあり、川岸は切り立っているから飛び降りるわけにもいかない。少し上流に行くと、支流の細い流れがあったので、岩を伝って本流に降りた。

谷に降り立つ 分岐にこんな印がある

 大きな岩に赤ペンキで矢印。「キュウドウ」とある。上流部を見上げると、岩だらけの急斜面が尾根に向かって突き上げていた。ネットで見つけた数少ない記録にあった倒木のある谷を見つけ、ともかくも下ることにする。1m以上はあろうかという大岩に埋め尽くされた枯れ川は、熱を反射して暑い。両岸に時折踏み跡を見つけるのでたどるが、すぐに途絶え、テープもあまりない。両岸を見上げるが、山道らしきものも見当たらず。葛川越えはすっかり廃道になったのだろうか。

中ユリ取り付付近 この倒木の先に分岐がある

 仕方なく、川のど真ん中を、岩を乗り越えながら下る。この岩が浮き石だらけで曲者、足の置き場を慎重に探しながら一歩一歩下る。しばらく行くと、川の分岐があり、時折水音が聞こえる。次第に水の流れが現れてきて、涼しい流れで手足を洗い、疲れを癒す。尾根を歩いていたときに木の根にひっかけてくじいた足が、今頃になって痛み出した。常備のシップをそこら中にぺたぺた貼って痛みをだましだまし、大岩の間をくだる。

大岩に覆われた谷川 ジンジソウに和む

 両岸の斜面が頭上に張り出した狭い谷間を、斜面に引っかかった大岩が転がり落ちてくるのではないかと、落石におびえながら恐る恐る通りぬけると、広い川原に出た。地図でみると、そろそろ山道があってもよいころだ。左岸の藪を掻き分けてはそれらしきものを探すが、なかなか見当たらない。山行記録にあったガレた斜面が右岸に現れた。赤テープがやたらにべたべたある。この上部は岩場でたいへんらしいので、近づかんとこ。

いつしか清流となる 川原に出た

 川原の大きな岩の上に、古びたザックが1っ個 ぽつんとおいてある。えっつ 誰も会わなかったのになあ。「だれかいますかぁ」とあたりに声をかけてみるが、静まり返っている。ザックは山慣れた人の持ち物のようだ。頭を「遭難者??」の疑問符が横切る。愛宕でもザックが落ちていて遭難者発見に結びついたし、なにかとぽつんとあるザックは訳ありのことが多い。で、早くこの場を離れなくちゃと 焦ってしまった。左岸には山道の取り付きらしきものは見当たらず、仕方なくさらに川を下る。

 心なしか周囲の景色は荒れていて 苔むした岩が多い。やっぱり違うなあ。引き返そうかなあ と思案しつつ、大岩をよじ登ってさかのぼるのももはや体力が・・・。もう16時前。時間に余裕がない。ならば 確か下流には林道があるはずだし、そこに出会えばなんとかなる可能性がある。どんどん下り、いよいよ小滝の獣道を下ったときには、一抹の不安が横切る。

 すぐに流れは緩やかな砂地になり、灌木の茂みがある。そろそろ林道間近かと勇んで進んでみると、なんと前方に擁壁があり、よじ登った先には 夕暮れの琵琶湖が広がっていた。堰堤の下は50mはあろうかという深い谷間で、水が滝になって落下している。ががーーーん 。そうか ここの水音がごうごうと山道に響いていたのか・・今となって気づいても遅い。林道は薄闇に包まれ、影も形もない。

あれ、ザックがある 堰堤にぶつかる

 谷の上部にある打見山の姿は黒いシルエットになり 暗闇がせまる。ここで遭難救助される訳にはいかない。地図を出し なんとか脱出の方法はないかと緩やかそうな斜面を探す。と、左岸に獣道のような しかし誰かが通ったような細い跡があった。ままよと木の根 木の枝をつかみ腕力勝負で急斜面をよじのぼった。すぐに大岩を回りこみ なにやら道型がある。たどると、谷の上部で立ち消え。しかたなく さらに上を目指す。しばらくして 今度ははっきりとした道型が現れ、やれ嬉しやとたどると、山道に出た。今度こそ荒川峠の道だ。

 やったあ! ほっと一安心しながらも まだまだ駅までの道のりは遠い。薄暗い山道を下っていくと、すぐに荒川峠への分岐に出た。前方に人影が見える。追いついてみたら、ななんと その人がしょっていたのは先ほどの怪しいザックだった。聞けば 岩登りを楽しんでいる愛宕山岳会のメンバーで、コースを整備するために来ていたとか。いろいろ質問するわたしに、これは危なそうだと心配したその人は、「大岩谷を遡るとすぐに大きな分岐があり 左俣の奥に天狗岩というクライミングの大岩があるが そこには絶対に近づかないほうがよい」と真剣に忠告してくれた。ともあれ かつては石切り場で栄えたという大岩谷周辺は、岩場のメッカらしい。

 真っ暗になった田んぼの道を明るい駅の光を目指し 疲れきって歩いた。救助ヘリのお世話にならなくて ほんまによかったと 家族や仲間の顔が脳裏に浮かぶ。

 後日 顛末を山仲間に報告したら、無理な山行がよくなかったさんざん注意された。谷歩き、岩場歩きの危険性を諭された。大岩谷のような枯れ川は、尾根で雨が降れば一気に鉄砲水になる危険がある。また 岩場を足を故障しながら歩くことも非常に無謀で、もし捻挫でもして動けなくなったらこのような谷での発見救助はなかなか難しいと、単独で歩く危険も注意された。

 比良岳に登って時間が余ったので ちょっと行ってみようかと欲をだしたのが、そもそも間違いの始まりだった。照り返しのきつい岩場を歩き、下流に着いたときは体力も消耗し、判断力も鈍っていた。怪ザックに恐怖を覚えた感もある。

 山はいつでも真剣勝負。体力気力が判断力を左右する。どんなところでも甘くみたらあかんと 改めて肝に銘じた山歩きであった。


葛川越えは道もはっきりせず 大岩に埋め尽くされた枯れ川は非常に危険です。
また 中ユリの取り付きは崩落しており、古道を無理に通ると岩場に転落の危険があります。
急峻で狭い谷間なので、雨の日は鉄砲水も起こりえます。山頂の天気には十分気をつけてください。
地形図・磁石でこまめに確かめながら歩いてください。初心者は経験者と同行してください。



                    【記: Ikomochi】(2010.8.20記す)