薩摩富士 開聞岳(924m)に初登頂
2019.6.22


 
開聞岳を仰ぐ


2019.6.22(土)25℃~28℃ 晴 Ikomochi

コース
JR枕崎指宿線南鹿児島駅7:01発山川行 → 山川着8:15=池田湖行鹿児島交通バス8:22発 → 開聞中学校前9:05着 ~ 開聞ふれいあい公園管理棟9:30着=9:40出発 ~ 2合目登山口10:00 ~ 4合目10:50 ~ 5合目11:10 ~ 8合目12:40 ~ 9合目12:15 ~ 山頂13:50=15:00出発 ~ 7合目15:50 ~ 6合目16:10 ~ 4合目16:55 ~ 2合目17:35 ~ ふれあい公園管理センター18:00着=18:10タクシーにて開聞駅に移動=駅近くで休憩=JR枕崎指宿線開聞駅19:20発山川行 → 山川発19:40鹿児島中央行 → 南鹿児島駅20:46着





 GWに鹿児島の開聞岳を眺めた時、「そうだ!開聞に登ろう」と決心した。霧島山は小学校の卒業旅行で高千穂峰に登って以降中学・高校と遠足で大浪池・韓国岳に数回登ったが、開聞はその姿を眺めるだけだった。帰省の際に山に登る機会がないまま長年来たが、ここにきて毎月用事ができて帰省。

 俄然故郷の山々に登りたくなってあれこれ調べたら、開聞も霧島も日帰り登山できる。これは行かねばならぬと、5月下旬に帰省した時に登山予定したのだが、丁度屋久島で豪雨のために300余名の登山者が一晩閉じ込められて救出劇があったその時で、鹿児島本土も雨と強風で山に行ける状態ではなかった。(その折鹿児島空港に向かうリムジンバスで屋久島からの船客と一緒になったが、登山者たちは車窓の町並みを眺めて「やっと都会に帰ってきたねえ」「1週間前にここを歩いていたなんて夢のようだ」と興奮してしゃべっていた、過酷な体験だったろうと思った)。

 6月にも帰ることになり、毎日のように天気予報を眺めていた。用事のある金曜は晴れだったが、その後登山予定の土・日は曇りから雨50%、梅雨空なので仕方ないかと諦めかけていたら、突然金曜午後に予報が晴れマークに変わり、勇んでザックの用意をした。

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 もよりのJR駅からディーゼルカーに揺られて錦江湾沿いに南下、海辺を走るこの指宿線は景色がよい。通勤通学客が次々に下り終点の山川駅で下車したのは私一人だった。駅前のバス乗り場から路線バスで開聞岳を目指す。乗客は私だけ。途中で数人が乗降したが。古い漁港山川を見ながら、点々と巡り薩摩半島最南端の岬長崎鼻に着いた。

通勤通学客と指宿線に乗る バス車内には中国語の注意書きがある

 先ほどからエンジンの掛かり具合がおかしく、運転手さんが「ちょっと調子が悪いので待ってください」と部品をあれこれいじっている。えっ ここまで来て他のバスに乗り換えてくださいはないよねえ と内心ドキドキしていたが、その後バスはなんとか調子を取り戻し、無事に開聞岳の麓を走って「開聞登山口」を目指す。

山川港 竹山(スヌーピー山)

 と、運転手さんが「登山ですか?それならこっちの方が距離が800m近いですよ」と停車してくれたのが「開聞中前」バス停。近いに越したことはないので、大喜びで降車。田舎のバスは親切だ。バス停から車道の登り坂を延々と歩く。気温も湿度も高いので、汗がだらだら流れ、まだ入り口だというのに息が荒くてしんどい。長い時間歩いたように思えたが実際は20分ほどで、開聞ふれあい公園の管理棟に到着。ザックが重く感じたので、登頂には不要な着替えや傘など荷を減らしてコインロッカーに入れた。

開聞に接近する 1合目をかいもんふれあい公園に向かう
天の岩屋(室町時代の供養塔) 公園管理棟

 男性1人女性3人のグループが出発準備中。やはり百名山だけあって登山者は多いのだろう。登山道の標識に従って、公園内のゲートボール場を横切り(年配者がプレー中で、どこから来たの?と声を掛けられた)車道を大きく迂回して2合目登山口に向かう。途中大きなヤマモモの木にまさに熟れて食べごろの実がなっているので、少し拝借した。そんな寄り道している場合じゃないかも、先を急ごう。

登山道に向かう 道は公園内を横切り

 10:00 2合目登山口は標高150m、眼下に広がる畑地を望む。山頂まで成人3時間、高齢者3時間半とある。わたしの目標は2時間半だけどはてさて。南国っぽい羊歯や野草に覆われた山道に入る。こもった湿気でくらくらする。山道の途中で見たことのない花を見つけたので写真を撮っていると、「なにしてるの?」とこどもの声。

目の前にそびえる頂き 2合目登山口
登山時間の目安は 草いきれの登山道

 「珍しい花を見てるのよ」と振り返ると、まだ小さな男の子とお父さんの二人連れが立っていた。2年生というその子は「もう帰りたーい」とお父さんを困らせている。「あのね、もうかえりたーいって思うけど、足を動かしていたらそのうちてっぺんについて、やったーって気持ちいいから、がんばってね」と声を掛けると、しぶしぶ歩いていった。(もう なんでこんな暑苦しいたいへんなとこに来たんだろ!かえりたいよお と思っているのは私も同じだった)

 山道は3合目を過ぎると大きな木々がそびえたつ照葉樹の森に入り、薄暗くひんやり気持ちよくなった。4合目のベンチで先ほどの親子が休憩していた。わたしも地面に腰を降ろして休憩。おにぎりをほうばっていると、男の子が「ぼくもお腹がすいたー」お父さんが「頂上ででラーメン作るからお菓子で我慢して」となだめている。「わあ いいな。てっぺんでラーメン食べたら、すごくおいしいよ」と男の子にいうと、男の子も納得してお菓子をほうばり、元気に登って行った。

なんの花か? 照葉樹林の道
4合目 5合目

 なだらかな森の山道を登っていくと、男性が下ってきた。朝5時に登り始めたという。朝は雲がかかっていたので見晴らしは良くなかったそうだ。しばらくすると女性の賑やかな声が聞こえてきて11:10五合目の展望所に着いた。朝先行したグループが休憩中で、わいわいと嬉しそう。見ると男性がガイドのようだ。2合目からここまで1時間、まずまずのペースで登ってきた。

 標高470mの5合目からは錦江湾の対岸の大隅半島や山裾に広がる海や池田湖などの眺望があった。薄雲がかかってくっきり見えないのが残念だが。グループを先に行かせ私は後からゆっくり登るつもりで出発したのだが、女性たちの登る姿をみていると時間が掛かっているのでこれはあかんと、追い抜かさせてもらった。女性たちが後ろで「あっ ストック使ってるよ」「歩きなれているね」と話しているのが聞こえた。

5合目から山川方面を望む

 5合目を過ぎると、急な登りに加え岩道になり、ときには大きな岩が目の前を遮るようになった。開聞は火山が岩を隆起させてできたトロイデ型(鐘状火山)だそうで、きれいな三角錐の山だが、山肌に沿って巻いていく登山道の左側は急斜面。転がり落ちると樹木には引っかかるだろうが、踏み外さないように慎重に足を置く。岩の角に手を掛けてよいしょとよじ登る。そんな繰り返しが続く。

 7合目から更に本格的な岩場になった。一筆書き300名山の田中陽希さんが開聞岳は標高は低いけれどなかなか手ごわかったと話していた岩場が続く。ところどころにロープもあり、木の階段もある。岩の隙間はぽっかり穴が開いていて下手に足を突っ込むとそのまま滑落しそう。慎重に足場を探して前進。濡れた岩が続く薄暗い道に差し掛かると、そこは「仙人洞」という修験者がこもったという岩穴で、今年の新しいお札が奉納してあった。

7合目 大岩を乗り越えて進む

 修験の山か。ほんとうは開聞岳をご神体とする牧聞神社(ひらききじんじゃ)にお参りしてから登頂がよかったのだけれど、時間配分が分からないので今回は失礼した。仙人洞の手前から下山者に数人会うようになった。聞くと、7時に登った人は10時に下山してきたとか、この猛烈な暑さでは早朝登山は正解だろう。山頂は人が少なく、今日は土曜日だが気温が高いから人が少ないのかもという話だった。

植生は南国 こんな道ってあり?
名前不明の花 本土最南端 佐多岬を望む
道は灌木帯に変わる 仙人洞
仙人洞由来 仙人洞は奥行がある

 8合目 この山は地図を見ると道はぐるぐる山を巻いているようだが、実際は上の方では標高を50mあげるために急な登りがありまたしばらく緩やかに進みを繰り返している。

8合目 更に険しくなった 火山岩がせり上がった山だそう

 やっと岩場地帯を抜けるとそこは9合目。やったあ、山頂まであと一息だ。下ってきたご夫婦に「もう少しですかねえ」と尋ねると、「うーん、それが結構あるんですよね。頑張ってください」と声を掛けられた。えっつ なんか不安。

やっと9合目 眼下の海岸線を望む

 岩場の斜面には霧島ツツジが満開で、赤色が鮮明。少し薄いピンク色のきれいなツツジもあり、ミヤマキリシマではと思ったが判別は不明。イワツツジではないかとも思うのだが、何しろ近づいて詳細を確認するには足場が不安定だった。岩の隙間にタツナミソウが群生していて、これも普通の立浪じゃなさそうだが、判別不明。この山は珍しい植物があり保護されているので、ゆっくり観察したいものだ。しかし、今日会った人たちは景色は眺めているものの、登頂時間にこだわって何時間かかった、早いの遅いのという話ばかりのようで道端にしゃがんでいるのは私だけのようだった。百名山とはそのようなものだろうか?。

来ました 梯子 9合目に咲く花 名前分からず
【コガクウツギ】

 さて、9合目過ぎると、よく写真にも出てくるほぼ垂直の長い岩場を梯子でよじ登る。アルミの梯子と古い木の梯子は少々危なっかしいが、頑丈に備え付けられてゆっくり登れば怖くない。梯子の上部に着くと、山頂まであと52mの標識。えっ 梯子登って山頂に着くんじゃないの?そこからが遠かったのなんの。体力も使い果たしているからへとへと。三角錐のてっぺんの岩場をぐるりと西から東へと半周し、やっと小さな赤い鳥居が見えて、山頂直下の御嶽神社に到着。ここで無事を祈る。

ミヤマキリシマか? えっまだ山頂じゃないの?
まだまだ岩登りが続く やっと山頂下の御嶽神社到着

 先ほどの女性グループも追いついてきて、みんな一緒に山頂を踏んだ。13:50ふぁあ やっとたどり着いたけど、考えていた以上に登りごたえがあった。もうやめようかと幾度も思ったが、がんばってここまでこれた。登山口で帰りたいと叫んでいた男の子は、下山に掛かるところだった。「すごいねえ もう登ったんだね。おばちゃんはやっと今着いたよ~」「ラーメン食べた?」と声を掛けると「うん!」と弾んだ声が返ってきた。よかった、この子は山が好きになるだろうな。「また会おうね」と別れた。

 大きな岩が重なってできた狭い山頂は、人が10人も座れば満杯になりそう。女性たちとバンザーイと叫んで、記念撮影。思い思いに陣取って、休憩した。後続の登山者が幾組か到着し、山頂を楽しんでいる。

はああ てそかった(疲れた) 二等三角点

 ともかく流れる汗に水分補給、暖かいハーブティを入れてほっとした。おにぎりをほうばっていると、ガイド氏が「あれ?今昼食ですか?」「いえいえ 途中で休憩のたびにちょこちょこ食べているんですよ。今朝は電車の中からしっかり食べてきました」というと「行動食ですね~」と納得していた。「ガイドツアーなんですか?」と聞くと、「モンベルの登山教室で、富士山に登るための訓練をしていて、開聞に登れたら富士山合格なんです」とのこと。

 女性の一人は、電波がつながった携帯を覗いて、「あー 〇〇ちゃんから来てる」「あー〇〇ちゃんも・・」と叫びながら返信に忙しい。みんなが開聞に登れるはずがないと心配してメールをよこしたのだとか。「そんなに言いふらしてきたの?」「おととい同窓会で、その時に話したらみんなが登れるわけがないと言って・・」「私だってできるわよ!って返事してやったら?」と大笑い。彼女は山頂滞在中、ずーっとメール返信していた。

山頂から南・西方向パノラマが見えるつもり

 もう一人の女性は私に「山になぜ登るんですか?達成感ですか?」と聞いてくる。「わたしはピークハンターじゃないので、登頂したら嬉しいけど、それ以外に古い道や峠を探して藪道を歩いて喜んでいるの」と答えたけど意味がわからないようだった。

 「交通機関利用の日帰り登山なので、アルプスとか有名なところには行けないのよ」というとガイド氏は「えっつ 今日も車じゃないんですか?」と驚いていた。「じゃあ 登る前の準備がたいへんですね。でも準備段階から机上登山が始まっていて楽しそうですね」とさすがモンベルさん、楽しさを分かってくれた。

 「頂上で周囲のパノラマを見回すのは気持ちいいよ。山の同定をするのも好きよ。野草も好きよ」と教えてあげたらよかったな。だって、彼女たちは山頂に座り込んでせっかくの360度パノラマを楽しむでもなし、おしゃべりに忙しかったから、勿体ない。

山頂から北・東方向のパノラマ

 さあそろそろ下らないととせかすガイド氏に連れられて、2時半ごろ彼女たちは下って行った。静かになった山頂に次々に登ってくる人たち。東京から来たという男性。飛行機を予約していたからとりあえず鹿児島に来たものの、天候が回復して開聞に登れて嬉しいとニコニコ。明日は韓国岳に登るというので、立派な100名山ハンターなのでしょう。

 山頂横の大きな岩のてっぺんによじ登ると、「皇太子殿下お立ち台」なる花崗岩の銘板が埋め込まれていた。私もお立ちになって周囲を見回した。薄雲でくっきりはっきりとは見えないが、遠く海のかなたには島影が見えた。屋久島種子島硫黄島などが見えたつもりにしておこう。火山なのに山頂に噴火口がないので後で調べたら、わたしたちが休憩していたあたりの窪みが火口の跡なんだそう。

 1時間余り山頂で休んでいたら6合目ごろから攣っていた太ももの疲れも少しは取れたので、15:00下山にかかった。急な梯子や急な岩場や大きな岩をまた乗り越えて無事に下山きるだろうかと不安ではあったが、いざ下ってみるとどんどん急降下できて、登りほどきつくなかった。

梯子を下る 山頂の岩場を望む

 しかし、登りで疲れた足はしょっちゅう攣って、30分置きに岩に腰掛けてはストレッチ、足を力いっぱいに伸ばして攣りをとる。数分そうやって伸ばしていると回復するので、攣りそうだと感じたら先にストレッチすると、ひどくならなくてすむ。危険な岩場を通り越してからはぼちりぼちりと下った。後ろからザッツザッツと靴音がして、大股で下山していく若者たちに道を譲ること数回、東京からきた男性も軽快に駆け下っていった。

タツナミソウ 6合目
岩場を下る まだまだ岩道です

 薄暗い山道をゆっくり下っていると、この時間に登ってくる人もいる。「えっ 今からですか?ヘッデイン持ってるんですか?」と思わず聞いてしまう。山頂に泊まって夕陽やご来光を楽しむ人もいるらしい。さすが、開聞やなあ、いろんな人に出会った。

火山の土質です 5合目から池田湖を望む

 17:30、2合目登山口に着き、公園管理棟を目指す。夕暮れのキャンプ場ではバーベキューが始まっていて、子供たちの歓声が響く。18:00時管理棟に到着、丁度解散前のモンベルグループに会い、健闘を讃えあった。彼女たちの今日の行程予定は登り3時間半、下り3時間半だったそうで、ほぼ同じタイムで歩いたわたしは合格であった。ガイド氏は太いロープの束を整理していた。私は細引き持参だったが、この岩山ではいざの時はロープでなくては無理だろう、ご苦労さまです。

2合目から車道にでます もんきあげはが給餌中

 管理棟のトイレで汗臭いシャツを着替え顔を洗う。帰りのバスは17時20分が最終で、あとは19時過ぎのJRしかない。公園から最寄りの駅まで歩けば40分ほどかかりそうなので、タクシーを呼んだ。運転手さんに開聞駅の近くでビールと食べ物のある店に連れていってと頼み、1軒は休み、少し離れた小料理屋に連れて行ってもらった。

 運ばれたジョッキをぐびぐび一気に飲んだ。普段は量を飲めないが、今日は格別の美味しさだった。JRの時間までたっぷりあるので、揚げ出し豆腐や焼きナスや茶わん蒸しを頼み、握り寿司ができるというので贅沢した。漁港が近く新鮮なネタで、おいしくいただいた。地元の年配の夫婦客が、「登ってきたんですか?」と声を掛けてきた。開聞には登ったことはないそうだ。

 19時前に店を出て20分かけてJR開聞駅まで歩いた。夕闇の無人駅は広場の前にあった。枕崎線は廃線の憂き目にあいつつもなんとか踏ん張っている日本最南端のローカル線だ。ガタンガタンと揺れるキハ系ディーゼルカーには、数人の若者。鉄道マニアっぽい。

JR開聞駅 キハ系ディーゼルカー
山川駅で乗り換えて 指宿線なのはな号

 薄暗くなった開聞岳を仰ぎ見ながら帰路に着いた。疲れたけれど、登頂できて大満足だった。足の不調が続きここ数年厳しい登山とは縁がなかったので、行って帰ってこれただけで嬉しかった。最寄りの温泉銭湯に直行し身体を休めたせいか、翌日は筋肉痛が残っているくらいで足の痛みが出なくて良かった。

 鹿児島の友人たちに登ってきたと話したら、どの人も頂上まで行けず8合目でかえってきたという、登っている最中に脳梗塞を起こした人もいる、あんまり登頂したという人はいないよ!と聞いて、しんどかったけど登り切ってよかったなあ~としみじみ嬉しい。しかし、麓で眺め美しい姿に魅かれて出来心で登る山ではない。手ごわい山でした。


                             【 記:ikomochi 】