京都北山を中心とした山々を楽しむ okaokaclub

野間岬灯台へ 
2022.5.25

後浜からの眺め


日程:
・ 2022.5.25(水)晴れ 25℃ Ikomochi

 子どもの時からいつかは行ってみたかった。鹿児島県薩摩半島最西端の野間半島を野間岬灯台へ。

コース:
南鹿児島バス停8:22発加世田行き→加世田合庁前乗り換え9:34=9:46野間池行き→野間池バス停10:57着~野間半島へ11:10~道で出会った方に車で送ってもらう~林道終点近く11:25~山道を経て~野間岬灯台11:40=11:50~山道から林道へ11:57~10基の風力発電風車跡地をめぐり海の景色を眺めてぶらぶら歩き~野間半島入口13:25~後浜13:35=14:00~エビ漁師さんを訪ねて~野間池バス停15:20発加世田行き→加世田16:37着=加世田17:10発鹿児島行きバス→谷山駅前18:08=市電に乗り換え市内へ18:40着。








 コロナでなかなか機会がなかった故郷鹿児島への帰郷。3年ぶりに帰ることになった。1週間の滞在期間、1日はフリーにしてどこか山に登ろう。あれこれ地図をにらみ時刻表を繰り、計画段階の楽しいひと時。そして、やっぱり野間岳に登りたいなあ。。。開聞岳から遥か西方に、三角錐のきれいな山が見える。野間岳。しかし、いくら時刻表をにらんでも、登山口までの接続便がなく、1泊すればなんとか登頂できそうという不便な場所。

 仕方がないので、野間岳から南へ、東シナ海に突き出た形の野間半島先端の野間岬灯台に行けないものか?鹿児島市内から1日4便、日帰り可能で接続のよいのは1往復のみ。11時に現地に着き帰りのバスまで4時間しか滞在時間がない。野間池のバス停から半島の先まで徒歩1時間半。往復できるのだろうか?ま、とりあえず行ってみよう。

 鹿児島市内から薩摩半島を斜めに横切り、半島の西側の吹上浜沿いにバスは南下する。日本3大砂丘、そして日本一長い47キロに及ぶ浜は、子どもの時から夏のキャンプに魚釣りや貝掘りを楽しみ、ウミガメが産卵にくる白砂の浜。

南国薩摩半島
琵琶の実が至る所に生る
加世田合庁前で乗り換えて

 今も延々と続く防砂林の松林に沿って、バスは走る。終点の加世田の手前で、バスの運転手さんが合庁前で乗り換えたほうがよいと声をかけてくれた。終点まで行くとひょっとして信号待ちに引っ掛かり野間池行きに乗り損なうこともあると親切に教えてくれる。

 野間池行きバスには数人の乗客。前の座席のおじさんが、「さっきのバスで終点乗り換えは危うかった、合庁前で乗り換えてよかったね」「ところで野間小学校の卒業生?何年生まれ?妹の友達に似ているから」と声をかけてきた。数十年ぶり久々に故郷に帰るのだそうで、楽しそうに昔話をする。窓外に遠く、3つの頂の金峯山が美しい。この山にもいつかは登ってみたい。

吹上浜の松林に沿って走る 特徴的な野間岳が見えてきた

 そして、入江の向こうに三角錐の野間岳が見え、どんどん近づいていく。小さな半島を回り込むと、目の前には広大な田んぼが広がる。行けども行けども延々と続く緑の稲田。ここが大浦干拓地か!社会科の教科書で習った大浦干拓地、江戸時代から遠浅の海を埋め立て工事完了は昭和40年。300haに及ぶ農地になった。

広大な大浦干拓地 野間半島を望む

 塩害がひどく米つくりは並大抵の苦労ではなかった。太平洋戦争が終わり、食糧増産のためにこの干拓地は注目されたのだろう。父は戦後農林省の統計事務所勤務で、いろいろな作物の作付面積調査に収穫高調査にと現地に出かけていた。わたしが小学生のころ、この笠沙大浦干拓地の調査にも出張し、幾泊もした。交通の便も悪く遠いところだと聞かされた。笠沙は陸の孤島だと。そんな思い出もあり、一度訪ねてみたかった地だ。

 調査の話で思い出深いのは、奄美大島が日本に復帰した1953年直後、父は奄美に農業調査に1月ほど出張、お土産に持ってきたのが一抱えの巨大なバナナの房。緑色のバナナの実が熟れるまで天井に吊るし1か月余り、毎日指を銜えて見上げていたのを思い出す。味は覚えていないけど、以来バナナは好きです。

 秋の収穫期には全国の石高調査の発表がラジオで流れ、父と今年は多い少ないと一喜一憂したのも、今の時代では考えられない光景です。食料増産のため農水産現場が必死に働いていた頃食料自給率80%だったのに、現在は37%まで落ち込み輸入に頼る日本、大丈夫なのだろうか。遠い日の思い出とともに、大浦干拓地が次世代に引き継がれ緑の稲で覆われている風景にほっとする。

海と島と山と 小島がたくさんある 大当港

 笠沙を抜けるとバスは海岸沿いのくねくねした道路を走っていく。眼下に広がる青い東シナ海、遠くに吹上浜、金峯山、近くには小島が点在するパノラマ。時折現れる小さな港。

 薩摩半島の西側 枕崎から野間半島まではリアス式海岸で、複雑に入り組んだ入り江や小島が続く風光明媚な地だ。隠れ港として有名な坊津は古代から大陸交易、密貿易で繁栄し、遣唐船の寄港地であり鑑真和尚が上陸した地でもある。集落ごとにある港は、この地が陸路より海路を交通手段にしていた名残でもあろう。

 景色がきれいなのでパシャパシャシャッターを切る。動くバスではタイミングを見計らってたいへん。すると、運転手さんが「ここは景色がいいから停めてあげる。写真を撮っていいよ」と声を掛けてくれた。有難くお礼を言って数分間、ゆっくりと写真を撮らせてもらった。ありがとう、親切な運転手さん。

金峯山を望む 野間へトンネル建設中

 海沿いの山際にへばりついた道をくねくね、交通の難所だったことでしょう。そして今巨大な橋が谷間に建設中で、その先はトンネル建設中。バイパスが完成すると車は便利にはなるけれど、この風光明媚な景色はバス路線から外れてしまうかもしれない。

野間池港を望む 野間池港

 もう一度岬を回り込むと、野間池が見えてきた。池というけれど入り江で、野間半島と東側の薩摩半島の間の狭い海峡が砂洲で埋まって繋がったという漁港。ぽっこりと山に囲まれ見るからに穏やかな天然の良港で、漁船や海釣り船の基地。そして外洋ヨット単独無寄港世界一周した今給黎教子さんの海連号本拠地でもある。ヨットハーバーには行かなかったが、外洋クルーズのヨットが寄港するそうだ。

 遠路はるばるやってきた野間池、バス停で降りたのは2人だけで、先ほどのおじさんは迎えの車に乗って去っていった。さてどうするかな?まずは、目の前の漁港を見に行く。漁連の建物は閑散としている。ぶらぶらしていると、エビの看板。野間は有名なヒゲナガエビの水揚げ地、お店を探していってみた。

 おばさんに聞くと、エビは冷凍だというので、帰りに立ち寄ることにして、野間半島の入口へと向かう。坂道の入口に看板がありその方向に坂を上る。すぐに眼下に海と岩場が連なる美しい景色。

名物ヒゲナガエビが売っている 閑散とした中心地

ここは砂洲の上の町 野間池後浜も美しい

 見下ろしながら歩いていくと、道路際の木を剪定している女性がいた。野間岬はこっちでいいですよね と尋ねるとそうだという。灯台まで歩いて行けるところまでいくつもりだと話しすると、「じゃあ車で乗せてってあげる、どうせ暇だから」と嬉しい申し出。道が狭いので途中の展望台までは車でよく行くけれど灯台までは行ったことがないというその方に乗せてもらって、狭くて離合できない細道をくねくねと走った。怖い怖いと言いながら、女性はほぼ舗装道路の終点まで運転してくれた。

野間岬へ 離合が怖い細い林道を10分 車で走る

半島への入口で
知り合った方に送ってもらう
林道は途絶え山道へ

 道中、一人で怖くないの?とか イノシシが出るけど大丈夫?に始まり、風力発電所が今年3月で撤去になったことや、風が強すぎて故障が多かったこと、風車跡地からの海の眺めは素晴らしく毎夏お孫さんを連れて車でいくこと、帰り道ぜひ立ち寄って景色を眺めるとよい とずっとおしゃべりしながら楽しいひと時だった。

 最後の風車跡地の広場でターンする女性を見送り、さあ灯台へ。舗装路は直ぐに草道になったがきれいに刈られていて、歩きやすい。と、前方から1台の乗用車がやってきた。男性が一人、灯台見物にきたのか。車をやり過ごし、進むとうっそうとした森になり細い山道。

亜熱帯の植生の山道をたどる 10分で灯台に着いた

 森の植生は明らかにシャリンバイや亜熱帯性の植物が生い茂り、南国や。薄暗い道を歩くこと10分で目の前に真っ白の灯台が立っている広場に出た。やったね。白いタイルが全体に貼ってあり、上部には螺旋階段。こじんまりした瀟洒な佇まい。残念ながら中には入れず。昭和34年竣工とのこと。灯台の回りを一周。木々に囲まれて眺望はないが、一か所開けたところから、わずかに青い海が見えた。島も船影もなし。念願の灯台にたどり着き自撮りで記念撮影。上を見上げて口をあんぐり。さて帰路は歩き。どれだけかかるか分からないので急ぐ

念願叶い見上げる 東シナ海です

ここにもソーラーが シャリンバイの森を抜けていく

 さきほどの舗装道に出ると、日差しが強くて暑い。25℃はある。道は半島の真ん中をまっすぐに貫いていて左右の海から風が吹き上げてくる。月桃の大きな葉の群生がある。海へ向かって下る急な坂道が幾か所もあり、この下もよい釣り場なのだろう

イノシシ罠のある林道 野イチゴ発見
大きな実のクマイチゴ

テイカカヅラの花 珍しいアコウの実

 大きな葉っぱの野イチゴの茂み。棘に気を付けながら赤い実を摘む。甘くて水分たっぷり。その後、道端の野イチゴの茂みにはお世話になった。暑さで喉が渇いたが、甘い実を食べ食べ歩いた。イチジクのような木の実がびっしりついた不思議な木(後で調べて アコウと判明)。

風車跡地 野間岳
秋目島景色が広がる

 途中お薦めの風車跡地の高台へと歩き、半島を囲む東シナ海の眺望を楽しんだ。東の方向、遠く坊津方面にこんもりとした秋目島が見えた。ジェームス・ボンド「007は二度死ぬ」の日本撮影地。昭和42年当時、秋目島なんて知らなかった。現在でも交通不便、こんな僻地によう来たな!ロケハンの人 よう探し出したな!と感心する。秋目島に行った従妹は,とりあえず遠い くねくね道が怖い けど、とてもきれいなところ と言っていた。もっと遠くに開聞岳も見えるはずだが、残念ながら薄雲で見えなかった。

月桃の群落 腰かけて休憩

 だーれも車も来ない林道は照り返しで暑い。12時半頃、大きな擁壁が階段状に造ってある場所で、コーヒーとパンで昼食。今度は西側の東シナ海を眺める。甑島も見えるらしいが、姿は確認できず。もうここまでくれば野間漁港までは近い。道端の植生を覗いたりイチゴを摘んだりしながらのんびりと歩いていると、風車跡地の広場からポーンポーン、トーントーンと音がする。

遠く吹上浜
手前に半島へのバス道が見える
何の花

 なんだろうと目を凝らすと、広場の真ん中で金色の何かが飛び跳ねている。キツネ?にしては小さい。イタチにしては金色。オコジョ? やあ!とつい声を掛けてしまい、その動物は一瞬固まったが慌てて草むらへ逃げ込んだ。しまった 写真撮るんだった。すると また とんとん音がして、もう1匹飛び跳ねている。が、カメラを構える間もなく私の存在を察知し、大慌てで走り去った。後で調べると、オコジョの被害が発生していると県の注意が出ていた。それにしてもきれいな色だったなあ。

金色の毛のオコジョが
飛び跳ねていた広場
立神岩

 道は下り坂になり、建物が見えてきた。野間岳が先ほどからずっと正面にあって姿を堪能、丸みを帯びた優しい三角形だ。急な坂道を下ると、車で送ってくださった方のお宅の近く。

 帰ってきました とお礼に伺う。なにも持っていなかったので、手持ちのお菓子やお茶パックを差し上げた。逆にお茶のペットボトルを頂いた。女性は肩にセキセイインコを乗せ現れ、楽し気な方だった。またお会いできるといいな。

 坂道の直ぐ横に後浜という名勝地があるので、浜に下ってみた。巨大な岩の立神岩、遠くの野間半島が一望にでき、あの先っぽまで歩いていったんだと嬉しさがこみ上げる。水は透明で清み、夏場なら裸足で岩場で遊んだだろう。静かで穏やかな風景を眺めて、浜の岸壁でぼーっと過ごす。野間池には美味しい海鮮料理の店があると案内にあったので昼食を楽しみにしてきたのだが、どこにも店らしきものはない。

 もしものことを考えて持参したおにぎりをほう張りながら海風に吹かれた。後ろから声を掛けられ、男性がどこから来たのか?と聞く。しばしその方と野間の風景について話を交わし。夏場はキャンプで賑わうという。

野間岬を眺める 夕陽スポットだそうです

 2時になり、3時のバスまで時間があるので漁港探検に行こうか?と港へ向かう。岸壁の近くの民家の前に床几を出して、男女3人がにぎやかに話している。こんにちは と声を掛けると、さっそくどこから来たのか?どこに行くのか?と声を掛けられた。

 誰にでも声を掛けて根掘り葉掘り尋ねる、こういうところ 鹿児島やなあ と、わたしも灯台に行った話をする。男性は魚釣りが趣味で通ううちに気に入って、小さな家を買ったのだそうだ。他の方は友達で、京都で働いていたことがある だのなんだの、共通項を見つけて喜びあう。野間岳に登りたいなら、うちに泊まって登るといい と男性。

 港にあった美味しい店は3月で店じまいしたそうで残念。話は名物ヒゲナガエビになり、これから冷凍を買いに行くのだというと、そういえばさっきエビ漁の船が帰ってきて漁協でセリがあった、もしかしたらまだ残っているかもしれないから港に行ったらいいよ と教えてくれた。野間半島沖合の特定の深海にしかいないヒゲナガエビ(タカエビ)は野間の3艘の漁船が権利をもっているだけ の珍品という。今期の漁も解禁になったばかり。いい話を聞いた。お礼もそこそこに漁協に走る。

 港の魚市場には人影はなく、いけすなどが置いてあるけれどエビもない。事務所に行って声を掛けた。すると、もうセリは終わってしまったが、船の持ち主がエビを持って帰ってから行けば分けてくれるだろう と家を教えてくれた。大急ぎ、港から15分ほど離れた家を探しに。訪ね当てたところは丸航丸という船主さんの店で、いましもトロ箱に詰めたエビを出荷するのに家族で大忙しの最中だった。

 漁協で紹介されたというと、エビは500gから売るけれどどれだけ欲しいか?分量が分からないので目安を教えてもらい、こんなチャンスはないからと思い切って2キロ買います!といった。鹿児島のスーパーで刺身用10匹ほどで500円くらいする。2キロで何匹になるかわからないけど、2000円也は安い。喜んでいると、お店の奥さんも、買ってもらって助かった。これから冷凍用の保存するのがたいへんなんだ とのこと。樽から獲りたてのエビを掬い、大きなビニールに入れてもらって保冷箱に入れてほくほく。重さは苦にならない。

後浜の堤防でぼー タカエビ

 バスの時間が3時20分、まだ余裕があるので野間池まで引き返す。さっきの男性たちにゲットした旨報告し、バス停でコーヒーを淹れてやれやれ。

 帰路のバスもまた同じ道を引き返す。変わらず海の景色が素晴らしい。この道から眺める夕陽が好き と運転手さん。毎日乗っていても、すごい夕陽には年に数回しか出会えないとのこと。この路線は通勤通学と、通院買い物のためにあり、3時の時間帯は乗客が少ないとのことで、運転手さんとしゃべりながらのローカルバスの旅。

 乗り換えの加世田からは乗客も多く、それでも窓外の景色を楽しみながら帰路。鹿児島市郊外に午後6時過ぎに着いたが、国道は渋滞でなかなか進まない。谷山駅の近くでバスを降り、電車に乗り換えて従妹の家に行った。

 エビを持っていくからごはん食べさせて とメールで頼んでおいた。温泉銭湯の竹迫温泉に浸かり、従妹夫婦と乾杯、さっそくタカエビの刺身。甘エビのタカエビはとってもぷりぷりで甘くてとろける。ひとしきり食べて、さあそれからタクシーに乗って、友人や親せき知人にタカエビのお裾分けに走り回った。夜の9時過ぎ最後に配り終えて家に帰り、残った分を冷凍した。

 夜遅くに配達したにもかかわらず、みんなから、すっごく美味しくて結局直ぐに全部たべてしまった と次々に連絡がきた。良かった、喜んでもらえて。

 タカエビを食べたくてわざわざ宿泊したのに、海が荒れていて漁がなく食べられなかった という人も。後日、会った鹿児島の知人には、あのエビの味は最高で忘れられない!と言われた。えええー そんなに喜んでもらえるなら、来年もまた行かなきゃいけないじゃないの! エビといい、灯台といい、出会った方々といい、全てに恵まれた旅でした。大満足。

金峰町の金峯山 3峰










トップへ