小てつのよも山話(NO.21)
「小父さん、ボッカする」


2008年11月24日(月)        小てつ








「小てつさん、一緒にボッカしてくれたら、とびきりの場所に案内します。」

小てつは、この言葉にホイホイのってしまう。
これは、仕方のないことだ。
このあたりのことを、多分誰よりも知る小父さんのとびきりだ。
行かないわけはない。

「小てつさん、あんた、確かここまでは来たと言うとったなあ。」

 小てつが、春にたずねたルートのことだ。

「じゃあ、ここから前を歩き。」

 おいおい逆だろう。知ってる道は先導できても、知らない道は・・・

「前行かんと、道、覚えられへん。」

 それはそうだ。しかし、ここまで先を歩いた小父さんのルート取りには
 まいる。
 以前からわかってはいるが、小ピークのトラバースをバンバンするので、
 目印の尾根の半枯れの木なんて、いつ通りすぎたのかわからない。
 地図を見て方向と傾斜を確認。
 この季節、落葉で踏み跡もはっきりしない。いや、それほど人の歩くコース
 ではないので、ケモノの足跡が頼りだ。

「着いた、着いた。以外に早くこれた。
 ほれ、見てみい。この標識は、以前メンバーのTが、ここらで迷ったいう
 から、迷ったところにつけて来い、言うてつけさした標識や。
 裏に名前書いてあるやろ。」

 今では、良くわかる明るい峠だ。しかし、4,5年前には

「笹で、笹で、歩けるかいな。」

 と、言う場所だったそうだ。
 峠を折れ、枯れた谷沿いに降りるのだが、沢の音が聞こえはじめるあたり、

「右、右、右に道がある。トラバースしよ。結構、きつい崖なんや。」

 あるか〜?
 道の残骸があった。

 しかし、すばらしい谷だ。
 秋の朝の光が、丁度いい具合に谷全体を輝かせている。
 小父さんは、こういう場所を引き出しに一杯持っているんやな。
 北山には、まだこんなすばらしいところが残っているんや。
 言うなれば、健全な自然と言うのだろうか。
 小てつは、初心者、最近の荒れた山しか知らない。昔の記述や記録により、
 よき時代を回顧するしかないと思っていた。でも、残っていた。
 これで、つなげることができる。思い起こせることができるようになった。
 
 谷を下れば、小父さんの標識がいたるところにある。ケルンまである。

「山歩きのもんには、山道とわかるようにな、積んだんや。」

 小屋から北の尾根道が静であり、こちらの谷道が動。
 わかった。ここらあたりが、小父さんの本拠地なのだ。

「ほれ、これが言うてた変木や。おもろいやろ。」

 不思議な木だ。人が細工したわけでもなく、1本の木が額縁のように四角に
 穴を開けている。丁度、人の顔の大きさで。

「ここから、顔写しておいたら、葬式につかえる。」

 そうだ。


「さあ、これからが仕事やで。」

 そうだった。ボッカが待ってるんやった。
 こうなれば、まるで悪代官に牛耳られる小商いの様相だ。
 先に報酬をもらってしまっている。文句は言えない。

「3時間かかるで、とりあえず、ひとつずつにするか。」

 ひとつ以外、いくつがあるんや?

「去年までは、ふたつボッカしてたんやが。」

 小父さん、歳だけでなく、生まれた星をごまかしているんと違うやろな。



 ひとつボッカで、今朝は動きが変な朝の話



                        【 記: 小てつ 】