小てつのよも山話(NO.4)
フキの話


2008年6月28日 (土)   曇り        小てつ







「これ、わしが炊いたフキや。」

小父さんが、6Pチーズの上蓋を、皿がわりに敷いて、囲炉裏ばたのこちらに  
寄せてくれた。

「ふもとのおばあさんに、教えてもろた、秘伝の炊き方や。」

「うまいな、これ絶品や。」

「そやろ、昆布も、最初は一枚全部、切らんと入れるんや。やわらこなって 
から、切るんやで。水は、いっさい使わん、酒だけで炊くんや。」

小父さんに、そんなマメなところがあるとは、知らなかった。

「丁度ほれ、あんたが歩きに来てた日に、採ったフキや。」

聞けば、わざわざ石油ストーブで、五時間かけて炊くそうだ。

「ガスはあかん。フキが、かとなってしもてな。」 (堅くなってしまってな)

本当に、マメだ。

「朝、一番に、老舗の「豆腐」を、一丁仕入れてきたんや。わし、一丁、よう
 食いきらんから、半丁だけ食うて、残りを「喫茶店」に持っていくんや。」

別の意味でも、本当にマメだ。

「あんたらは、非常食に、クッキーみたいなのを持っとるんか?
 わしは、これや、チーズや。
 ほんまの非常時はな、水気なしや。カサカサしたんは、喉通らん。
 チーズなら、大丈夫。通りええしなぁ。」

場数を踏んでいる小父さんの言葉は、参考になる。

昼からの仕事も、どうにか格好がついた。小屋で一服もし、

「もう4時や。喫茶店によって帰ろう。」

と、峠を下りる曲がりくねった道で、小父さんが停車する。

「この辺りに、フキが、たくさん出るんや。」

「どこに〜?」

辺りを見回しても、それらしい場所はない。

「いや、このガードレールに、ザイルをかけてな・・・」

ああっ、小父さん、フキをとるのに、断崖を降りているのだ。とても、並みの
発想と、行動力ではない。長年、「岩」をやっている小父さんならではのこと。


「花壇の花を、鹿にやられてしもたんよ〜。もう、根こそぎよ。」

喫茶店のおかみさんが、なげく。聞けば、畑のは、ちょくちょくやられていた
が、花壇のは初めてだとか。
おかみさんをなだめ、コーヒーを入れていただき、今日の仕事の成果を報告す
る。

「それは、御苦労様でした。お腹すいたことでしょう。バラ寿司食べる?」

ホウの葉で包んだ、バラ寿司を、ごちそうになった。これまた絶品。山は、心
のあたたかい、おいしいものばかりなり。

「あっ、しまった。豆腐持ってくんの、忘れた。
 半分食うのすら、忘れとった。」

あわてて、小屋まで、豆腐を取りに走る、「マメな小父さん。」

 梅雨のやみ間の、一日の話。



                        【 記: 小てつ 】

フキ