小てつのよも山話(NO.18)
「小父さん、道を間違う」


2008年11月3日(月)        小てつ








「ありゃ、違うな。」

先を歩く小父さんの歩みが止まる。
獲物を十分狩った帰り道、遠くに雷鳴があったので、そそくさと小屋へ
帰ろうと、ずんずん歩いていた時のことだ。
雨雲が空を覆っているとはいえ、ここは小父さんの庭山である、小てつは
何の疑いも無く、ついて行くのみであった。

「北に向いてしまった。」

 小てつ、磁石を取り出し、初めてわかる。

「もとに戻ろう。」

 と、小父さん。
 えっ?ひょっとして、小父さん、間違った?
 小父さんは、何もなかったかのように、もとの分岐まで戻り、本道を行く。
 後でこう言った。

「北山では、ようあるこっちゃ。」

 小父さんの歩く道は、最短ルートである。
 時には、登山道。時には、ケモノ道。登山道が、尾根をたどっていたら、ユ
 リに巻いているケモノ道をたどる。
 ケモノ道が無くても、先の見えている小ピークなどは、道もないところを、
 ユリに巻いていくから、小てつには、ついていくのがやっと。
 おまけに、くだりは早い。気を抜くと置いていかれる。
 
「おもしろいやろ。行きしなに、あれだけ尾根をまたいで、あっちこっち獲物
 を探し歩いてた時には間違わんのにな、黙々と歩いとると間違うなんてな。
 まぁ、間違うても、ここはすぐわかるところや。」

 どうすぐわかるかと言えば、このあたりの植生だと言う。
 このあたりの人は、昔から炭を焼いていたが、尾根の木には手を出さなかっ
 たと言う。尾根の木がなくなれば、山が荒れることを、村人は知っていたの
 である。従って、尾根には大きな木が残っている。
 そして、尾根をはさんで、国有林、個人林があり、国有林は雑木、個人林は
 植林と大体は分かれているから、尾根から覗けば一目瞭然と言うわけだ。
 それで方角も現在位置もわかると言う。
 また雑木の種類によって、標高もわかるというのだ。
 小てつの場合、間違ったことがしばらくわからないから迷うんですね。

「どこでもそうよ。
 山を一つのすり鉢と考えれば宜し。もしくは葉っぱの葉脈かな。」

 すり鉢のふちが尾根で、底が谷である。自分がすり鉢のどこにいるかを
 把握できてさえいれば、間違っても平気だと言う。
 
「でも、これからの季節は気をつけなあかん。
 落葉で、ふみ跡も見えんようになるしな。」

 なるほど。
 
「でも昔、わからんようになって、木に登ってまわりの山見て確かめたことも
 あったなぁ。
 大きい杉の木は、てっぺんが丸いんや。若い杉の木はとんがっとる。
 そんなんもポイントやな。」

 やっぱり、いろいろされていらっしゃるんですね。小父さん。


秋雨なのにゴロゴロと、うっとおしい日の話



                        【 記: 小てつ 】