小てつのよも山話(NO.22)
「小父さん、脳を語る」


2008年12月1日(月)        小てつ








「山を歩くとな、ボケへんのやで。」

 小父さんの持論である。

「普通の道を歩いとるんと違って、次に、どこに足をつくか、瞬時に判断せな
 アカンしな。」

 考えていなくても、今ついている足の情報が脳に伝わり、次の足をどう出す
 か、脳が勝手に指令を出すのだそうだ。
 脳の中では、情報伝達が活発になり、

「脳が活性化しよる。」

 そうだ。

 わかるような気がする。
 少し変化のある山道を歩くことで、脳が刺激されるわけだ。
 それに比べ、林道やアスファルト道では、自然と歩調が単調になり、足だけ
 でなく、脳も飽き飽きしてくるんだろう、とても疲れる気がする。

 「体が覚えるちゅうやろ。あれは脳が覚えよるんやで。」

 山歩きの経験があがっていくと、足のつき方が自然と変わっていくそうだ。
 一度、小父さんの山靴の裏を、盗み見たことがあるが、それは見事だった。
 細工でもしたように、まんべんなく磨り減っているのだ。先もかかとも、
 左右とも。あんな靴裏は、見たことない。

 がしかし、それはわかった。脳の活性化はさせたいが、この鎖骨に食い込む
 荷物をボッカして、何故に登山道をはずれて藪漕ぎ、倒木くぐりをせないか
 ん?

「近道ですわ。」

 ああ、そうですか。

 そこで小父さんに、

 頭の中身の活性化は、もう大概でいいんで、外見を活性化できませんかね?

 と、聞こうとしたが、

「それ知ってたら、先に私がやってます。」

 と、言われそうなので、黙って足を動かした。


ボッカ話のその2



                        【 記: 小てつ 】