八丁川遡行


心洗われる景色が続く



2009.5.16(土) 曇りのち小雨 18度 Ikomochi 八丁川遡行MAPへ


◆長年の憧れだった八丁川を遡行、チャレンジしてみました。

コース:
京都駅JRバス6:50発⇒周山着8:08=小塩行8:24発⇒小塩バス停8:45着=9:00出発〜西谷林道 折谷分岐9:35〜奥付谷分岐9:55〜越木峠取り付き10:15着=10:35発〜越木峠11:00〜八丁川11:10着〜ノコギリ谷分岐11:50〜ゴルジュ12:30〜馬場谷口13:10〜廃村八丁13:30着=14:00発〜刑部谷〜刑部滝〜広谷〜ダンノ峠15:30着=15:50発〜谷道〜仏谷16:20〜菅原バス停16:30着




 思いがけず実現したシライシしゃくなげ探索の旅は、とても楽しかった。小てつさんという同行者に恵まれたお陰であるが、久々ハードな山歩きをして、眠っていた山への情熱がまたよみがえってきた。疲労も考えていたよりも軽度ですんだ。これはちょっといけるかもしれない!で、小塩から菅原へと山道を歩いてみようかな?と、小てつさんに相談したら、「八丁川遡行しはったらよろしいやん」と簡単に言われてしまった。

 えっつ わたしでも行けるかなあ?まだもう少し先の話と考えていたのだけれど・・・。でも、林道歩きは楽そうだし、川遡行も足元さえしっかりしておけばなんとかなりそう。よっしゃ 一丁やってみるか と、バスの時間を調べると、朝6時前には家を出立せねばならない。丁度家人も留守で、早朝ごそごそしてもうるさがられないし、これはチャンスかも。ところが、天気予報がどうもうまくない。大雨ではないけれど、午後から降るとか降らないとか。川で雨に遭いたくない。幸い京北町の降水確率は夕方からの予報。出かける間際までウェザーニュースをチェックし、これならぎりぎり大丈夫そうと、足を踏み出した。

 久しぶりのJRバス。途中で乗り込んできた男性、リュックを持っているが、お寺めぐりか山歩きか?前の席に座った男性が、地図を取り出し眺めている。後ろから覗くと、地形図に数字やら線やら書き込んであり、今日のコースを予習してこられたようす。こういう方には声を掛けねば!

 男性の準備が一段落したころ「あのう 今日はどちらへ行かはるんですか」と声を掛けた。驚いて振り返った男性は、「細野からだるま峠へ尾根を行きます」それからは、いろいろ話しに花が咲き、「ホームページを書いている」という男性が恥ずかしそうに取り出した名刺には、『ふーちゃんの京都デジカメウォーキング』「えっつ あのふーちゃん!一度お目にかかりたかったんです。握手させてください」厚かましいわたしに、ちょっと引き気味ながら、快く握手してくれたふーちゃん。

 大文字山を歩くとき、詳しい地図や楽しい写真の数々を参考にさせてもらって以来、ふーちゃんサイトは時々読ませてもらっていた。山仲間うちでも、ふーちゃんを参考に歩いている方が多く、密かに有名。穏やかでふんわかしたHPの雰囲気そのまんまのリアルふーちゃんと、細野でお別れした。なんだかとても心が和んで、嬉しくなってしまった。今日って幸先いいかも。

 そんなうきうきした気持ちを反映してか、周山の空は明るく広がっている。今日は家人が留守なので、「もしも夜までに下山メールなかったらよろしくね」と捜索隊をお願いした小てつさんに、'予定通り出発します'のメールを打つ。'京都は雨が降りそう、なにかあったら東の尾根に上るんですよ'と返信あり。

 乗客1人の小塩行きバス。運転手さんと話すうち、単独をしきりに心配される。「僕やったら女房一人で行かせないなあ」「いやあ うちもいろいろあったんですけど、まあなんとか無事に帰ってくるからと思っているみたいです・・(汗)」バス停で、運転手さんに記念撮影のシャッターを押してもらい、今日は夕方まで雨は大丈夫と保障してくれた空はうす曇、ますます幸先よい。

しっとりと美しい西谷林道 テンナンショウ 山藤盛り

 先日「周山街道の白い稲妻号」で突っ走った西谷林道を、テクテク歩く。地道が歩きやすい。周囲の山はよく手入れが行き届き、光が通って明るい。テンナンショウが咲く道端に、紫の藤が今を盛りと香る。緩い勾配の道を歩いていくと、次第に稜線が近くなってきた。奥付谷分岐を過ぎた辺りから倒木が目立つ。道端に新しい切り口の丸太が、幾本も転がっている。Oさんの仕事だろう。ありがたいことです。

折谷分岐 奥付谷分岐
渓流沿いの衣懸谷 越木峠入り口

 10:15「越木」の標識が立つ越木峠登り口で休憩。パンとコーヒーで2度目の朝食。今日はロングなので、しっかり腹ごしらえをする。越木峠への谷道は、1週間前よりも緑が濃くなり、ヤブデマリの花が一面に咲いていた。最後の登りをあえぎながら越すと、すぐに広域林道。そして越木峠。今日も静か。深く掘れた峠道を下っていくと、すぐに水音が聞こえ、八丁川のほとりについた。

ヤブデマリ満開 渡渉を繰り返す
標識がある

 水は澄み、雨の影響はなさそうだ。よし、このまま予定決行。さて、足元をどうしようか。沢靴はまだ水が冷たかろうと敬遠し、一応長靴は持ってきたのだが、イマイチ靴底のすべりが気になる。滑り止めに、冬のチェーンも持って来たけれど。たっぷりワックスを塗った革靴と、ロングスパッツでなんとかしのげないものか。水に入ってみると、浅瀬を探せば大丈夫そう。で、そのまま登山靴で歩くことにした。

 越木峠口からすぐに、対岸へと渡る。広い川岸にははっきりと踏み跡があり、どんどん進む。浅瀬を探し対岸へ。そんな繰り返しを幾度も行いながら、山奥深く入っていった。見上げる空は明るく、新芽が開いたばかりの若葉の萌黄色が、両岸に広がっている。よく写真でみる風景の中に、現実に立っているなんて!ほんまなんやなあ と嬉しくなる。

 一旦水に浸かった山靴をいまさら長靴に履き替えるのも面倒くさくて、少々水かさがくるぶしあたりでも、じゃぶじゃぶ渡っていく。水がふわっと入りこんで、靴下がじとっと濡れる。でも、歩きにくくなるわけでもないので、そのままで歩く。苔でぬるっと滑る石が多く、ストックで安定を確保しながら、ゆっくりと渡る。大きなホウノ木。白い幹に抱きついて、パワーを分けてもらう。細い幹の広葉樹が多い中、突如出現した杉の大木。整然と並んだ森の中では、小人になった気分。東の尾根の先端が巨大な岩の壁になっている。転がり落ちたのか、おむすび型の巨石がごろんと転がっている。景色が変化に富み、なかなか面白い。

新緑がまぶしい 岩の壁が出現 巨樹の森

 川の流れが二股になった三角州に到着。のこぎり谷分岐だ。谷の奥を覗くと、こちらも心地よさそうな道がある。分岐から渡渉して対岸に渡ると、風景は一変し、せばまった谷間が続く。長い岩が段々状に連なり、深く掘れた溝上の岩の上を透明な水が泡立ちながら流れていく。浅瀬を探すがなかなかなく、くるぶしの上まで水に入って渡る。よく写真にある淵。澄んだ水で底まで見える。夏なら泳ぎたいところだが。岸辺の岩場を、手がかり足がかりを探しながら慎重に進む。さらに小さな段々状の滝が続く。

澄んだ淵 侵食した岩場の流れ

 『The八丁川』これぞ八丁川遡行の醍醐味か、心地よい流れと清明な空気に満ちた別世界が続く。ゴルジュ帯を抜けると、また浅瀬が広がるゆっくりした流れになり、尾根の稜線が目の前にせまる。山肌が崩れ落ち、倒木が積み重なった川を見ながら、炭焼き窯のある広場を通りぬけると、もう馬場谷の分岐だった。13:10着。予定通りの時間で歩けた。

炭焼き窯の跡がたくさんある 馬場谷に到着

 標識の前で、記念写真のシャッターを押す。やったあ できたあ 無事に遡行でき、ほっとした。先ほどからぽつりぽつりと雨が降っているが、濡れるほどでもない。八丁村はずれのお墓は、きれいに掃除されシキミもあがっている。「こんにちは」お参りして、村に入る。

古い標識がある 雪で倒壊した小屋

 先週、八丁川の林道終点に 八丁に住み着いている佐野さんの車が停めてあった。怪しい車ではない旨、張り紙があり、5月一杯は滞在との情報であった。自称村長や佐野さんがいるだろうか。小屋を覗くが、人の気配はない。山林監視小屋の3分の2はものの見事に倒壊し、中の炭袋がむき出しだ。雨ざらしの炭の山に、ブルーシートがかけてあった。話に聞いていた『八丁温泉』の効能書き、温泉場はドラム缶風呂であった。星を眺めながら湯に浸かれば、効能よしに決まっているな。

 13:30大木の下で雨宿りしながら、昼食タイム。湯を沸かしカップ麺とおにぎり、そして食後のコーヒーまで、ゆっくりと過ごした。今日みたいな天気予報の日には、みな山歩きを敬遠するのだろうか。緑が雨で洗われる景色もまた見事なのに、もったいないなあ。時折聞こえるジュウイチの鳴き声が響き、あとはかすかに風が渡る音だけの静まりかえった八丁は、素晴らしい。

 14:00もう少しのんびりしたかったが、菅原までまだ一仕事ある。後ろ髪を引かれながら、出発。スモモ谷分岐の集落跡に、男性が一人 あたりの景色を眺めながら楽しんでおられた。品谷山のブナの新緑を楽しみに来られた由。

 刑部谷の山道は、藪も少なく道幅が広がっている。花の季節に団体さんが来たのだろうか。ブルドーザーで整備したてのような山道は、いつもややこしい四郎五郎峠の分岐さえ明確である。いくつかある滝を楽しみながら、刑部谷の沢沿いに歩く。水量は少なく、渡渉するのも楽だ。刑部滝。滝の右岸に細い道が出来上がっている。危険なので道が途絶えていたのに、ここも最近人が行き来しているのだろうか。

刑部滝 品谷山の尾根 広谷の偽きのこ

 奈良谷との分岐近く、木のはしご橋はとうとう朽ちてしまっていた。新しい巻き道ができつつある。倒木が道をさえぎり、ただでさえややこしい広谷への登りが、踏み跡だらけになっていて、急斜面をよじ登るはめになる。やっと本来のジグザグ道に乗る。今日始めての登りが、応える。はあはあ息を切らしてしまう。尾根近く、足元に散らばるしゃくなげの花弁。もう終わりかけのピンクのしゃくなげが、そこここに咲いているので、追いかけてみる。

 木の根道を這い登ると、細尾根の上。藪で閉ざされていた細尾根の先に、はっきりと道が出来上がっていた。品谷山の稜線が眼前に広がる。尾根にはしゃくなげが続く。ここが有名な刑部滝のしゃくなげなのだろう。団体さんが来たのかな。それにしても、このまま進むと刑部滝の上部。普通のハイカーが迷い込むと危ない。刑部谷への分岐近くを、念を入れて木でバッテンし入りこまないようした。

 淡い緑色に染まった広谷。朽ちた桂の木の幹に、きのこが生えている。有名なサルノコシカケだが、様子がおかしいので触ってみたらプラスチックの作り物だった。うーん。ダンノ峠に向かって緩い登りが続く。長丁場を歩いてきたので、さすがに足元がよろけたりする。よたよたとやっとこ峠下の坂を登り、ザックをおろして休憩。峠の周囲も緑が深い。ぽつんと1本立っていた老木は、一層年をとっていた。もう新芽も出ていない。周囲の若木の陰に小さくなり、老体はもう朽ちなんとしている。長い年月、ご苦労様でした。木の幹をなで、峠を下った。

 ダンノ峠から小刻みなアップダウンの続く尾根コースは、今のわたしには耐えられないだろう。谷へと斜面をぐんと下り、ごろ石の谷道を歩いた。倒木は片付けられ、歩きやすくなっていた。最後の沢を下ると、すぐに林道に出て、もうすぐ菅原だ。

ダンノ峠の老木 熊檻は解体され畑に

 仏谷の最奥にお住まいの本田さん宅の奥にあった熊の囲い柵(捕獲した熊を吊るして解体する場所)は取り壊され田圃は新しい畑に生まれ変わっていた。野菜の苗が整然と植わっている。

 本田さん宅前のせせらぎで、顔を洗い、汗で濡れたシャツを着替えた。濡れた靴下も交換し、足を冷たい水で洗ったら、また元気が出てきた。バスの時間までゆっくりある。のんびり帰ろう。ところで、先ほど会った男性はまだ下ってこないけれど、どうしたのかなあ。後ろを振り返りながら、バス停へ向かった。折谷分岐にある新しい山小屋に、今日は車が停まっていた。そうだ、男性はあそこのご主人だ。山が好きで家を建てたけれど、なかなか来れないとこぼしていた方だ。今日はゆっくり山を堪能されているのだろう。安心して、わたしも帰路につく。

本田さんの洗い場 菅原から望む

 ぱらぱら小雨、気持ちいいのでタオルをかぶってのんきに歩いていると、バス停あたりでしきりにこちらを窺う姿。やや あれは!! やっぱり、小てつさん。もしかしたら迎えにくるかも・・ と脳裏をかすめ、広河原へ向かわずに予定通り菅原に出てきたのだけれど。よけいな心配かけちゃったなあ。申し訳ない。

 案の状 京都市内は朝からザザぶりで、小てつさん とうとう来てしまったらしい。広河原に来てみて、天候があまりに違うので、安心したようだけれど。周山街道の白い稲妻号で 周山街道をひた走る。小野郷に入ったあたりから、道路はずぶぬれで、雨脚が強かったのが分かる。

 予定よりも1時間早く京都タワー前に帰着。タワー温泉の熱い湯で疲れをほぐし、居酒屋で飲んだビールのおいしかったこと。達成感に大満足の、最高の一日でした。素敵な人たちとの暖かい交流を思い返すと、さらに疲れがほぐれた。 居酒屋で、リュック姿のわたしに声を掛けたサラリーマン、『ああー 広河原のあたりは低い山ばっかりですよね・・・』それがどうした、山は高けりゃいいってものじゃない。低くても面白いところは一杯あるんよ。見くびったらあかんで!! と心の中でつぶやいた私です。

 年末から薬の副作用で体調を崩し、患者の訴えよりもデータ重視の専門医に匙を投げ、追い討ちをかけるように長年尊敬していた方とのいさかいで、さらに気持ちも身体もぼろぼろになった。仕事も一番忙しい時期で、毎日薄氷の上を歩いていた。急激に瘠せ、不眠が続いた。山への気持ちも萎えていった。「どうしたものかと実は心配したんですよ。最近いい顔つきになったね」先日聞かされた主治医の言葉。身体の気が巡ってきたようだ。こうしてまた、山歩きを楽しんでいる自分がいることが、ほんとうに嬉しい。長いトンネルの先に、光がみえる。

 車の中で飲んだポカリスエットの味、最高でしたよ、小てつさん。小てつさんのいう『ベクトルが同じ方向を向いている人』との出会いって、いいもんですね。ふーちゃん 小てつさん、八丁さん、元気をくれて、ありがとうございました。

『ふーちゃんの京都デジカメウォーキング』はこちら
 ↓
http://blog.goo.ne.jp/corpus2247/d/20090516



                          【記: Ikomochi】






名残のイワカガミ