越木峠〜シライシ しゃくなげ探し


念願のコシキ峠を歩く



2009年5月3日(日) 晴れ 20度  小てつさん ikomochi 越木峠〜シライシMAPへ


◆今年はしゃくなげの当たり年、きれいなしゃくなげはどこにある? 道なき山中をさ迷って、谷越え尾根越え、最後はロープで崖下り。苦労してたどり着いたしゃくなげの森は、甘い香りに満たされていました。

コース:
8:30京都市内出発⇒京北町小塩9:30⇒西谷林道⇒越木峠入り口10:20着=10:35発〜越木峠11:00着〜砥山〜シライシ12:00着=12:30発〜尾根と谷を越えて14:00小馬場滝〜尾根乗越えて林道へ14:40=15:00発〜林道〜八丁川〜越木峠分岐15:30〜越木峠15:40〜越木峠入り口16:00⇒西谷林道⇒京都市内18:00


◆注意
このコースの後半、尾根ルートは、山道がありません。斜面は急で、大小の滝があり、危険を伴います。地形図を読みとり、コース取りの出来る人のみ可です。ロープも必要です。決して初心者だけで行かないでください。




 「来年の春はしゃくなげが豊作ですよ」去年の秋から、Oさんはしきりに予想していた。そして、4月末、北山の奥を訪ねたら、そこここでしゃくなげが咲いている。「櫻の花見もしたし、次はしゃくなげの花見に行かなあ・・」そわそわするわたしに、小てつさんが「花見、ご一緒しましょか」と声をかけてくれた。小てつさんが一緒なら、少々不便な山でも連れていってもらえる。『やったあ』と内心飛び上がるわたし。

 「北山で一番のしゃくなげは、そりゃシライシですわな」とOさんが話していたっけ。シライシってどこ?行ったことない山域だけど、行ってみたい。

分岐には標識が立つ 白い稲妻号 越木峠入り口

 当日、小てつさんの愛車『周山街道の白い稲妻号』(って、いつ名前がついたんやろ)に同乗し、一路京北町小塩を目指す。西谷林道をごとごと揺られながら、どんどん山奥へ入る。やわな乗用車じゃ傷が心配になりそうな道だけど、働く車 軽トラは力強く進む。林道分岐には、古く錆びの浮き出た標識が必ずある。うむむ この標識、八丁林道で見かけたものと同じ作りだ。ということは、八丁大道の取り付きはやっぱりあそこか・・思わぬ発見に、一人喜ぶわたし。

 林道の両脇の斜面に、倒木がたくさん転がっている。今年の雪で一斉に倒れた杉だ。道路をふさいでいたので、Oさんがチェンソー持参で、邪魔な丸太を切って始末してくれたとか。そんなある日、街中では、Oさんに連絡がつかない・・と知人たちがちょっとした騒ぎになっていたら、ひょっこりOさん現れた。やれやれ、元気だったか。でも、その話が恐ろしい。衣懸谷で丸太を切っていたら、ごろごろごろと太いのが転がってきて足がはさまってしまった。2時間かけてなんとか地面を掘って、足を抜き脱出したけど・・というので、みんな仰天した。ここらの新しい切り口の丸太はみな、そんなこんなの曰くつきだ。「足の骨は大丈夫やったんですか」「そんなもん 折れたりしません」と涼しい顔のOさんだが、気をつけてくださいよと祈らずにはいられない。

峠道を登る 広域林道へ階段
コシキ峠

 10時35分 いよいよ待望の越木峠を目指す。広域林道が出来るまではファンが多かったと聞くが、いまや『哀れなコシキに行きたくもない』の峠はどんなとこ?沢の水が流れる岩は、黒朱灰などの色が段だら模様に重なったきれいなものだ。鉱石好きな友人が見たら、喜んで、名前も教えてくれるやろうなあ。細い谷間をジグザグに登っていく。ところどころに新しい砂利が山となり、あきらかにこの谷の石ではない。きっと林道造成中に上から放ったんやろなあ。

 沢を離れるとすぐに歩きやすい道になり、頭上に林道の石組みが見えてきた。リボンにつられて林道によじ登りそうになるが、そのまま道なりに草むらを分けると、目の前に立派な階段がありました。何かと意見の分かれる広域林道。無理やり削った山の斜面は、すぐに崩れそう。補修 補修でたいへんやろうなあ。広域林道から数歩、坂を上ったところがコシキ峠です。ここがかの『コシキ峠』か。やっと来ることができましたよ。思っていたよりも眺望があり、明るい景色に囲まれた峠です。

しゃくなげ発見 古道を行く

 峠から藪を分けて尾根に乗る。すぐに、よく歩きこまれた古道が現れ、尾根の真下を巻きながらずんずん進む。時折視野に入る赤茶けた林道が目障りなものの、明るい雑木林の山中は静かで、かすかに飛行機の音が響くだけ。北側の谷にしゃくなげがないかなあ と、小てつさんが小ピークの上に偵察に行くと、「イコモチさーん」と呼び声が。どれどれ・・ピークに登ると、ピンクの花が咲きほころびています。1本みつけると、あそこにも ここにも ほれそこにも・・と、北側の斜面一帯に群生しているようす。これは期待が持てそうやねえ と、これからの眺めを想像してわくわくする二人。

 尾根道にとって返し、ずんずん歩く。白い標識が倒れているので起こしてみる。『コモチガタワ』いったいこれは地名なのだろうか?立て主の名前もなく、頭をひねる二人。足元には小さなスミレがちょこちょこと咲いている。タチツボスミレはなんとか分かるけど、この葉の色が紫色のは何だろう? スミレは北陸型とかいろいろあって同定が難しいから・・と、二人でぶつぶつ言いながらも、次々に見かけるスミレが気になる。

不思議な標識があちこちにある すみれも色々咲く 興ざめ林道

 ズエという奇妙な標識、コシキ峠から時折ぴらぴらぶら下がっていたピンクのテープが、急に増え、立ち木がテープで囲ってある。『資源の森モニタリング』の標識。植生観察をしているらしい。時折開けた場所から眺める南側に、遠く連なる峰峰。特徴ある姿から城丹尾根の天童山や飯森山だろう。「あそこが大伐採地や」 城丹尾根をよく歩く小てつさんには、場所が分かるらしい。

 「あれはなんだあ」突然小てつさんが叫んだ。「鳥の巣かなあ」見上げる大木の上の方に、なにやら巣のような工作物がある。しげしげと観察すると、幹から枝先にわたって枯れ枝を幾層にも重ねてある。巣にしては大きすぎる。「熊棚か?」と小てつさん。「そうや、きっとそうや」っていうことは、熊がいるのね? 会いたいなあ、熊さん。しかし、熊の大きなため糞は見かけなかった。寝床の近くにはしないんじゃないかなあ?と小てつさん。まっすぐ伸びた頑丈そうな幹には、うまいこと蔓がからみ、足がかりの小枝があり。すごいなあ 初めてみたなあ と、はしゃぐ二人。「今年は熊の話ちっとも聞かないよね。少なくなったんやろうね。」「この寝床は現役なんやろうか」でも、近くには熊の気配も鹿の気配もありません。まあ わたしたちが気づく前に、彼らのほうがさっさと逃げてしまうでしょうが。

あれはなんだ? 生木に針金が食い込んだ標識 シライシ三角点

 砥山の標識を見てすぐに、緩い登りになり、上がりきったところが、三等三角点の「シライシ」山頂でした。木立に囲まれて見晴らしはありません。山頂広場の周囲には、たくさんの山名板がぶらさがっている。1枚の木札は立派なのだが、立ち木に太い針金で縛りつけてあるので、幹に針金がくいこんでいる。可哀相に思った誰かが、針金を緩めてくれたようだが、いづれまた針金が食い込み樹皮が巻き込んでしまうかも。悪いけれで、この木札は針金を切り、木の根元に置かさせてもらった。よく見かける木札なのですが、最近あちこちではずしてある。作者には、考慮をお願いしたいものです。

 麓の村から十二時のサイレンが響く。わたしたちも、ここで昼食にする。寒くもなく暑くもなく、爽やかな風が時折吹き抜ける山頂で、のんびりと休息した。

 12時半、いよいよ出立。Oさんが書いてくれた尾根図としゃくなげの場所、略図なのでいったいどの尾根にあるのか?シライシから派生する一番長い尾根をまずは目指す。尾根道を西へ、すぐの小ピークから方向を見定めるがよくわからないので、とりあえず北方向に支尾根に足を踏み入れた。雑木の尾根はわずかに踏み跡もあり、藪をかき分けるまでもない。しかし、あたりは花の匂いもなく、ピンクの固まりもなく、緑一色に染まっている。

 しゃくなげの群落は、最初にみたきりでその後一切お目にかかっていない。「ほんまにあるんやろうか?」「昔の話で、もう消滅したんと違うやろうか」「しかし、緑色しか見えんなあ」単眼鏡で探す小てつさんの目にも入らない。次第にいらいらして、疑心暗鬼の二人。このところOさんにほいほいだまされていることが多いので、「ほんまかいなあ」と疑り深くなっているのである。

 尾根の3分の1くらいは進んだが、まったくしゃくなげの気配なく、周囲の尾根にもピンク色が見えない。このまま進むと尾根の先端が崖のようでたいへんだし、Oさんの略図には他の尾根にもある とあるので、斜面を下って東の尾根にとりつくことにした。急斜面を幹にぶら下がりながら源頭部に下り、また登り返した。つかまる木の根が多いので、腕力勝負でよじ登る。

しゃくなげを求めてさ迷う あー やっとしゃくなげがあった 白花しゃくなげ

 取り付いた尾根は、こちらも薄い踏み跡があるが、相変わらず緑のカーテンである。先頭行く小てつさん、「あかんわ ガセネタや どうしましょうねえ」と諦めムードだけど、「かのOさんが言うのだからきっとシャクナゲはある。しかも諦めて引き返したら、あとでなに言われるかわからんし、もちょっと探そう」と励ますわたし。つかれてとぼとぼ歩いていると、小さなピークを越えたこところで、「あった!!すごい」と歓喜の声が聞こえた。急いで見に行くと、丁度8分咲きのシャクナゲがびっしりと斜面一面にある。「やっぱりあったんや、Oさん嘘つかない。」と、一転Oさんを褒め称える二人だった。

 しゃくなげの群落を確認したら、次は1本しかないという『白花シャクナゲ』を探そう。これもOさんが「庄兵衛さんのご主人と偶然に白い花をみつけましてな、挿し木にして増やしたのを周山の料亭が欲しがってあげたのが、またあちこちに増えていって、ぐるりと回って ほれ 庄兵衛さんの庭で咲いている白花シャクナゲですわ」(とのことだったが、庄兵衛さんによると、このしゃくなげが親株ではないそうだ)という曰くつき。

 ほんまにあるやろか? いや是非とも見つけねば! 目を皿にしてしゃくなげの木を一本一本確かめていると、あったぁ! 頭上に白い花が咲いていました。一本見つけると、その周囲に数本の白色の木が固まっています。真っ白なの、花びらの先がピンクのもの、すこしグラデーションになっているもの、種の混合があるのでしょうか。白花も見つかり、これで心おきなく石楠花の観賞に浸れます。薄いピンクや濃い緋色に近い花、さまざまな花色が次々に目に入るので、どんどん追いかけていくと、いつの間にか谷底に下りていました。沢沿いに、東斜面の花を見上げながら下流へ歩きます。

しゃくなげを追って谷へと 崖の上にしゃくなげが

 すごい すごい この尾根はシャクナゲの森。天ヶ岳のシャクナゲ尾根も比良のシャクナゲも目じゃない。谷には甘い花の香りと若葉の香りが混ざりあい、なんとも言えない爽やかな空気が漂う。「ここは最高や」と叫びながら歩いていると、前方が怪しい。「滝やで 落ち込んでいるもん」小てつさんが偵察に行き、「滝ですわ、ちょっと下れんなあ」が、みあげる滝の両崖には、それはそれは鮮やかなピンク色の花をまとった木があり、岩場と花が素晴らしい景色なので、しばらく見とれてしまいました。ほどよい湿気がよいのか、花も葉もしっとり。

 さてと、ここから脱出を考えねば。東の尾根に登り返して、等高線が緩い向こう側へ乗り越すことにしよう。木の根をつかんで、岩場をよじ登る。しゃくなげの根が絡み合って登りやすいのだけれど、なぜか足元がふわふわと落ち着かない。見ると、岩の上に根がはびこって絡み合っているだけで、根が剥がれたらそのまま崩落という状態。比良ワンゲル道の木の根道のような具合なのです。ここで落ちたら一貫の終わりなので、慎重に体重を預ける幹を確かめながら、やっと尾根の先端についた。

 ここがまた、しゃくなげの巣。藪状態で、枝の下を這いくぐる。少々枝がぽきぽきしようが、かまってられません。先頭を行く小てつさんが、緩い斜面を探しながら少しづつ高度を下げている。「あーっ!!」叫び声に「どうしたん?」叫び返すと、「違う花がありました。なんかほっとするわあ」見下ろす斜面に、真っ白な花をつけた山桜が1本。「ほんま 山桜 いいなあ。」山桜の木を見に行こうとするが、傾斜がまたさらに急になるような。で、南へトラバースしながら 足元の沢に下ることにする。が、最後は急斜面で木も少ないので、小てつさんが細引きを幹にまわし、たぐりながら2回、そうやってやっと沢に降り立った。すぐそこに、林道が見えている。車で来た人が歩いていて、わたしたちを見つけたらしく驚いている。小さな滑滝の続く沢沿いに下り、林道に出たときは、正直ほっとした。

巨木も多い 八丁川

 地形図で等高線の混んでいない斜面を選んで下ったつもりだけれど、実際はなかなか予想できません。八丁川沿いの岩の下で、お茶にした。熱いコーヒーと甘い菓子が、身体を蘇らせてくれた。「すごいしゃくなげの量やった。ほんまに来てよかった。けど もう今年はしゃくなげ見なくてもいいわ」と話しながら、くつろいでいると、さっきの人たちが車で引き返していった。呆れた顔してこっちを眺めていた。わたしも反対の立場やったら、同じように 物好きな人たちやなあ と眺めることだろう。

 尾根の中腹に白いものが見える。さっき見つけた山桜だ。そして、がーん ななんと林道から緩く登る斜面が、桜の木の方向へ伸びていた。踏み跡もあった。もちょっと我慢すれば、ロープなしで下れたのだ。「来年はここから登ろうね」とはやばやと約束した二人です。

 浅瀬の続く八丁川を渡渉を繰り返しながら、越木峠の分岐についた。倒木で少し荒れてはいるものの、深く掘れた古道はゆったりと登れた。尾根から谷へと越木峠を周回できて、感無量だった。北山の他の地域とはまた違う、清清しい山でした。問題の広域林道は、わたしたちが歩いている間、車もバイクもまったく音が聞こえず、ほっとした。八丁川沿いに林道を遡ると、若葉に覆われた山が美しい。せせらぎにピンクの花が差し掛かり、ほんまは感動の風景なのだけれど、「悪いけど、もうしゃくなげはいいわ」それほどしゃくなげに頭のてっぺんから足先までどっぷりつかった、贅沢な山行でした。

 地図読みしながらのルート探しは、楽しいでした。が、地形図では表せない崖や斜面、こぶなどを読み取り、すばやく判断しながら歩く難しさをも味わった山行でした。そして、単独ではとても歩けなかったコースでもあります。

 Oさん、とっておきの場所を教えてくださって、ありがとうございました。小てつさん いろんな発見をした山旅に誘ってくれて、ほんまありがとうございました。来年は、楽(そうに見えた)コースからまた行きましょね。



                          【記: Ikomochi】






小てつさん撮影 白いしゃくなげ