小てつのよも山話(NO.51)
「小父さんのやり残したこと」


「実は、私にもやり残したことがありましてな。」



2009年6月21日(日)        小てつ








「ここから見えるあの尾根が、日本の背中ですわ。」

 小屋下の直火ができる宴会場で、今日がはじめての山行となったK君に、山
 のバカ話がひと段落したところで、小父さんが語る。

「日本の背中。つまり日本海と太平洋に注ぐ、分水嶺というわけですわ。」

 小屋から見える南の稜線が、それにあたるのだという。

「実は、私にもやり残したことがありましてな。」

 思う存分何事もやってきたと思われる小父さんに、どんなやり残したことが
 あるんかいな。

「本州のね、分水嶺を、山口県から青森県まで歩き通したかったんですわ。
 テントをかついでね。
 今は、もう無理やけど、若い頃には計画を練ったもんでした。」

 おいおい、そんな壮大な計画までしてたんかいな。
 小父さんの尾根道好きは知っていたが、まさかそこまでとは・・・。



 実は過日、北山をこよなく愛されていた方が、突然亡くなった。
 とても素敵な方だったので、非常に残念で、仕方がない。
 まだまだ夢のある計画をされていると聞いていた、その半ばのことだったの
 で、さぞかし・・・と思っていた。

「人間、いつ、どうなるかわかりません。
 そやからね、登りたい山には登っとかなアカン。行きたいとこには、行っと
 かなアカンのですわ。」

 と、その時小父さんは言った。
 けどしかし、分水嶺の話のときには、こう言った。

「やり残したことはありますんやけどね、悔いは残ってませんのや。」

 その時、その時、全力だったから、悔いはないということだろう。
 そうであれば、あの方も、きっと悔いはないだろう。
 ひょっとしたら天国を、バラ園にしてくださっているかもしれないと思う。


「小父さん、何もやり残すことないやん。水戸黄門みたいに、諸国漫遊で、
今からでも、やったらええやん。」

 と言いかけて、あわてて口を押さえた。
 待て待て、そんなん言うたらその気になって、今回の山行で、どっぷり山に
 つかりそうなK君と、「助さん」、「格さん」させられるやんか。


 小父さん、知ってるか。水戸黄門は、大覚寺や沢池とかで撮影してるんやで。
 本当は、諸国漫遊なんてしてへんからな。  という話


 追記

 皆さんが入浴シーンに真っ青にならなければ、「疾風のお娟」の由美かおる役
 は引き受けるわよ。と言う方がいらっしゃいますが・・・どうしましょう?



                        【 記: 小てつ 】

ひょっとしたら天国を、バラ園に
してくださっているかもしれないと思う。